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東京地方裁判所 昭和46年(行ウ)180号 判決

東京都渋谷区宇田川町二二番二号

原告

株式会社渋谷西村総本店

右代表者代表取締役

西村敏男

右訴訟代理人弁護士

小林辰重

東京都渋谷区宇田川町一番三号

被告

渋谷税務署長

青木利輔

右指定代理人

伊藤瑩子

高見忠義

左々木宏中

門井章

木谷孟

右当事者間の法人税課税処分等取消請求併合事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

一  (昭和四六年(ロ)第一八〇号事件について)

1  被告が原告に対し昭和四四年一一月二七日付でした原告の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度以降の法人税青色申告書提出承認の取消処分を取消す。

2  被告が原告に対し昭和四四年一一月二九日付でした左記各処分を取消す。

(一)  原告の昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度の法人税の更止処分(国税不服審判所長の昭和四六年四月二七日付裁決により税額が八、六〇二、三〇〇円に減額されたもの)ならびに過少申告加算税(右裁決により税額が三六、六〇〇円に減額されたもの)および重加算税の各賦課決定処分

(二)  原告の昭和三九年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日までの事業年度の法人税の更正処分(右裁決により税額が六、六六二、一〇〇円に減額されたもの)ならびに過少申告加算税および重加算税(右裁決により税額が一、六七〇、七〇〇円に減額されたもの)の各賦課決定処分

二  (昭和四六年(ロ)第二一九号事件について)

被告が原告に対し昭和四六年五月一五日付でした原告の昭和四〇年二月一日から昭和四一年一〇月三一日までの事業年度の法人税の更正処分ならびに重加算税賦課決定処分を取消す。

三  両事件を通じ訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告

(両事件につき共通)

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  原告の請求原因

1  原告は、果実の小売ならびにレストランおよび喫茶店営業を営む株式会社であり、被告から法人税の青色申告書提出の承認を受けたものであるが、被告に対し、昭和三八年一一月一日から昭和三九年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和三九事業年度」という。)、昭和三九年一一月一日から昭和四〇年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和四一事業年度」という。)および昭和四〇年一一月一日から昭和四一年一〇月三一日までの事業年度(以下「昭和四〇事業年度」という。)の各法人税につき、別表(一)ないし(三)の「確定申告」欄記載のとおり確定申告した。

2  被告は、原告に対し、左記各処分をした。

(一) 昭和四四年一一月二七日付通知書をもつてした、昭和三九事業年度以降の法人税青色申告書提出承認の取消処分(以下「本件青色承認取消処分」という。)

(二) 昭和四四年一一月二九日付でした

(1) 原告の昭和三九事業年度の法人税の更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の各賦課決定処分(別表(一)の「更正(四次)」欄記載のとおり)

(2) 原告の昭和四〇事業年度の法人税の更正処分ならびに過少申告加算税および重加算税の各賦課決定処分ならびに過少申告加算税および重加算税の各賦課決定処分(別表(二)の「更正(四次)」欄記載のとおり)

(三) 昭和四六年五月一五日付でした原告の昭和四一事業年度の法人税の更正処分ならびに重加算税賦課決定処分(別表(三)の「更正(四次)」欄記載のとおり)(以下右(二)の(1)、(2)および(三)を通じ、各更正処分を一括して「本件更正処分」、各賦課決定処分を一括して「本件賦課決定処分」といい、右両処分を合わせて「本件更正等処分」という。)

3  原告は、被告に対し、昭和三九事業年度および昭和四〇事業年度分に係る本件更正等処分につき昭和四四年一二月二四日、本件青色承認取消処分につき同月二六日、いずれも異議申立てをした。

右異議申立ては、審査請求とみなされたところ、国税不服審判所長は、昭和四六年四月二七日付をもつて、本件青色承認取消処分に係る審査請求については棄却の、本件更正等処分に係る審査請求については別表(一)、(二)の「審査裁決(二次)」欄記載のとおりの原処分一部取消の各裁決をし、同年五月一二日右各裁決書謄本を原告に送付した。

4  しかし、本件青色承認取消処分および本件更正等処分は次に指摘するような事由により違法である。

(一) 本件青色承認取消処分の違法

(1) 理由附記の不備

本件青色承認取消処分の通知書には、「法人税法第一二七条第一項第三号に掲げる事実に該当すること。」とのみ記載されている。しかし、右の記載は、法人税法一二七条二項により要請されている理由附記の程度を充すものとはいえない。すなわち、右法条の趣旨は、税務署長の取消処分について公正さを担保するとともに、その取消処分についての争訟手続における攻撃の対象を明確に特定して不服申立の便宜を図ることにあり、また、青色承認取消処分が納税者の利益に重大な影響を及ぼすことに鑑みれば取消通知書には、たんに該当条項号を記載するにとどまらず、いかなる事実が右条項号に該当するものと認定したかが分るように具体的事実を記載することが要請されているものと解すべきである(後記三の2で評論)。したがつて、このような記載のない本件青色承認取消処分には理由附記不備の違法がある。

(2) 該当事実の欠如

原告に法人税法一二七条一項三号に該当する事実はない(後記三の1(二)で詳論)から、この点からも本件青色承認取消処分は違法といわなければならない。

(二) 本件更正等処分の違法

(1) 理由附記の欠如

本件更正処分は、本件青色承認取消処分の後、いわゆる白色申告者に対するものとしてなされたものであり、その通知書には、更正の理由がなんら記載されていない。

しかし、本件青色承認取消処分は違法であつて取消しを免がれず、原告はなお青色申告書提出の承認を受けている者といわなければならないから、右のように理由附記を欠く本件更正処分は違法であり、それに伴なつてなされた本件賦課決定処分もまた違法である。

(2) 国税通則法二六条違背

被告がした本件更正等処分は、別表で明らかなごとく、第四次の更正および賦課決定である。しかし、国税通則法二六条の法意は、第三次までの更正(再々更正)に限つてこれを許容していると解すべきであるから、この限度を超えてなされた本件更正等処分は違法である。

(3) 調査の違法性

本件更正等処分の基礎となつた原告の売上除外金額の推計は、次のような違法調査により収集した資料に基づくものであるから、既にこの一事をもつて本件更正等処分は違法性を帯びるすなわち、被告は昭和四二年九月七日何らの予告もしないで東京国税局資料調査課の係員二〇数名を動員して原告の店舗等の実地調査をした。その際、右係官の一部は、原告代表者宅において、応待に出た同人の妻が「代表者は風邪で臥床しているので他日調査にきて欲しい。」と要請し、代表者自らも「原告の所得に関する一切の資料は自宅にはない。」と申入れたにもかかわらず、これには全く取り合わず、寝室にまで入つてたんす、戸棚等をくまなく点検するなどし、また、右代表者の母西村末子宅でも、机の抽出し等を検査し、勝手に子供部屋に入り込むなどし、同人らの私生活を不当に侵害した。さらに、右係官の他の一部は、原告の本店(一階果実部、二階パーラー部)および事務所に臨み、開店直後の九時半頃から午後七時頃までの間、取締役西村勉、経理係山下陸奥男らから売上除外等を執拗に問いただし、ロッカー、机、金庫等をくまなく捜索し、各種の書類を有無をいわさず取上げるなどしたため、原告の店員は落着いて客の応待ができず、客もまた異様な雰囲気を察知して寄りつかず、原告の営業活動は著しく阻害され、その雇客に対する信用も毀損された。このような調査は明らかに、国税通則法二四条、法人税法一五三条一五四条の予定する調査目的(かかる調査は、納税者の課税標準等又は税額等の確定を目的とするものであつて、犯罪捜査のために認められたものではない。なお法人税法一五六条参照)およびその限度を逸脱した違法なものというべきである。

(4) 推計方法の不合理性

被告は、原告の各事業年度の売上除外金額を、前記経理係山下の供述に基づき、パーラー部につき売上金額の二〇パーセント、果実部につき一日二万円と推計しているが、右推計方法は合理性を欠き違法である。すなわち、右山下は経理の一部の事務を担当していたにすぎず、右のような売上除外を実行できる地位にはない。のみならず、その供述内容自体も一貫性を欠き(例えば、パーラー部については、一方において売上の二〇パーセントを除外したと述べているが、他方において一〇パーセントを除外したとも述べており、果実部について、右パーラー部のごとき除外率ではなく、一日当りの除外金額を述べた点も不自然である。)、被告は、右供述内容につき原告代表者の説明や確認を求めたり、同人に反論・弁疎の機会を与えることは一切していない。したがつて、右山下の供述のみを基礎とする前記推計方法には客観性も合理性もない。

(5) 所得額認定の誤り

原告の各事業年度の所得金額は確定申告のとおりである。したがつて、被告の本件更正等処分には、所得金額および税額の認定を誤つた違法がある。

5  よつて原告は、本件青色承認取消処分および本件更正等処分(ただし国税不服審判所長の昭和四六年四月二七日付裁決により減額された部分を除く。)の取消しを求める。

二  被告の答弁および主張

(請求原因に対する答弁)

1 請求原因1ないし3の各事実は認める。

2 同4の(一)(1)(2)の各事実中、本件青色承認取消処分の通知書の理由の記載内容は認めるが、その余の点は争う。

3 同4の(二)(1)の事実は、本件更正処分の通知書に理由の記載のない点を除き認める。

4 同4の(二)(2)の事実中、本件更正等処分が原告主張のごとく第四次の更正および賦課決定処分であることは認めるが、その余の点は争う。

5 同4の(二)(3)の事実中、原告主張の日に東京国税局資料調査課の係員が原告の店舗等の実地調査をしたことは認めるが、調査方法の詳細の点については争う。

6 同4の(二)(4)の事実中、被告が原告の各事業年度の売上除外金額の点につき原告主張のような推計方法を採つたことは認めるが、その余の点は争う。

7 同4の(二)(5)の事実は争う。

(被告の主張)

1 本件青色承認取消処分の適法性(その一)

法人税法一二七条二項後段(以下本項において「本件条項」という。)の理由附記は、該当条項号の記載をもつて足り、これに該当する具体的事実を記載することは要しないと解すべきであるから、本件青色承認取消処分は適法である。その理由を詳論すると次のとおりである。

(一) 本件条項の文理解釈

理由附記に関する税法上の規定の仕方を比較すれば、青色承認取消処分に関する本件条項の定め方(「その取消しの処分の基因となった事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない。」)は、青色申告の更正処分の場合(「その更正の理由を附記しなければならない。」法人税法一三〇条二項)や、異議決定および裁決の場合(昭和四五年法律第八号による改正前の国税通則法――以下「旧国税通則法」という。――七五条、行政不服審査法四一条一項、四八条では、「理由を附」さなければならない、とし、現行の国税通則法八四条四、五項、一〇一条一項では、「理由を附記し、………右理由においてはその維持される処分を正当とする理由が明らかにされていなければならない。」と規定している。)よりも附記理由の内容程度を具体的に規定していることは明らかである。このような差異を直視し、本件条項の文理を素直に解釈すれば(原告主張の解釈は、「取消しの基因となつた事実およびその該当条項号を附記しなければならない。」と規定されているときにのみ成立する。)、青色承認取消処分の理由附記は該当条項号の記載をもつて足りるというべきである。

(二) 立法の経過

青色承認取消処分の理由附記の制度は、昭和三四年法律第八〇号による旧法人税法の改正の際、議員提出の修正案により旧法人税法二五条九項後段として設けられたものであるが、その審議にあたつた、衆議院大蔵委員会規制並びに税の執行に関する小委員会における質疑応答の結果(昭和三四年二月一八日付同小委員会議録第二号一五頁、同年二月二五日付、同小委員会議録第三号一〇頁参照)によれば、理由附記を要求する趣旨は、処分の相手方に対し処分の理由を知らせて不服申立てに便宜を与えることにあるが、取消しの基因たる事実は具体的な条項(旧法人税法二五条八項の一ないし五号)に明確に掲げられているので、取消通知書には、そのどれに基づいて承認を取消したかということ、換言すれば該当条項を附記すれば足りる、と立法者が考えていたことを明瞭に看取できる。そして、前記旧法人税法二五条九項後段は、昭和四〇年法律第三四号による法人税法の全面改正の際にそのまま本件条項としてとり入れられたのであるから、右立法者の見解は、本件条項の解釈にあたつても妥当する。

(三) 青色承認取消処分の性質

青色申告制度は、申告納税方式の基盤を成す記帳慣行の普及を図るために設けられたものであり、青色申告書提出の承認を受けた者は、各種の特典を享受できるが、承認がなされたとの一事をもつて当然に右特典を享受できる訳ではなく、実際に誠実な信頼性ある帳簿書類の完備と記帳を励行し、これに基づいて確定申告をしてはじめてそれが可能となる。したがつて、青色承認の取消処分は、このような誠実性かつ信頼性のある帳簿書類の完備と記帳が現実に行なわれていないという場合に、そのことを確認する意味において当該承認を取消すものに外ならず、一たん与えた特典を将来にわたつて剥奪するものでもなければ、制裁的機能を有するものでもない。このような青色承認取消処分の性質からしても、右のような信頼性および誠実性の欠如という結果を示す該当条項号を附記すれば足りることを根拠づけることができる。

(四) 理由附記を命じた本件条項の趣旨・目的

本件条項の趣旨は、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の相手方に対し処分の理由を知らせて不服申立てに便宜を与えることにあるが、該当条項号の附記だけで十分右の趣旨目的は達せられる。その理由は次のとおりである。

(1) 取消理由の類型化

法人税法一二七条一項は、取消理由を一号から四号までに類型化し、取消しできる場合を制限的に規定しているので、一方において、税務官庁の恣意は十分に抑制され、他方において、不服申立ての便宜に欠けるところはない(近代的帳簿を備え複式簿記の原則にしたがつて帳簿書類を整備してゆくに必要な会計処理能力と要員をもつ一般の青色申告法人は、該当条項号を示されただけで、その意味内容を十分認識できる。)。さらに、一号ないし四号の内容を実質的に検討しても、被告の主張の正当性が首肯できる。すなわち、一、二、四の各号はいずれも形式的事由であつて、その該当号の摘示だけで理由附記の程度として十分であることは多言を要しない。三号だけを別異に解する根拠はないのみか、法自体、帳簿書類が信頼性を欠如する具体的根拠を示しているので、この場合も三号に該当する旨が示されれば十分である。

(2) 税務調査の先行

青色承認取消処分は、承認を受けた者に対する税務調査を経てなされるものである。しかるに、右調査の際には承認を受けた者も立会い、調査者との間で、どの帳簿書類のどの項目および数額について記載の不備、不正、脱漏等があるか否かについて検討されるのが実情である。したがつて、承認を受けた者は、該当条項号の記載によつて取消理由に該当する具体的事実をも十分了知できる。

(五) 他の処分等の理由附記との対比

(1) 青色更正処分との比較

青色更正処分では、具体的課税標準額もしくは欠損金額に関する勘定科目、その数額が問題となるため、理由附記の記載自体からその内容が明らかになるよう帳簿の記載以上に信憑力ある資料を摘示して説明することが要請されている。これに反し、青色承認取消処分の場合には、右のような具体的・個別的な勘定科目や数額が直接問題となる訳ではなく、その前段階で、そもそも帳簿によって課税標準を算出するという方法によらせるのが相当か否かが問題になるにとどまる。したがつて、この場合に青色更正処分の理由附記よりも簡単にして結論のみを示すことでなんら差支えがない。

(2) 青色申告の承認申請却下処分との比較

青色申告の承認申請に対する却下処分については、却下の理由として青色承認取消処分の取消理由とほぼ同様の理由が掲げられているが(法人税法一二三条)この場合にはなんらの理由附記も要求されていない(同法一二四条)。

(3) 刑事上の一、二の手続との比較

刑事訴訟法第九六条一項および六〇条一項は、それぞれ、保釈の取消および勾留の理由を制限的かつ類型的に列挙しているが、保釈取消決定および勾留状には、該当条項号だけを記載すれば足りると解されている。法定手続が厳格に保障されている刑事法の分野における右のような解釈は、本件条項の解釈にあたつても十分参酌されるべきである。

2 本件青色承認取消処分の適法性(その二)

原告は、後記4の(一)記載のとおり、多額の売上金額を除外する等帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載していた。右は法人税法一二七条一項三号に該当する。したがつて、右該当事実の存在を前提としてなされた本件青色承認取消処分は適法である。

3 本件更正等処分の適法性(その一)

(一) 国税通則法二六条の法意

被告が第四次の処分として本件更正処分を行なつた点はなんら国税通則法二六条に違反しない。けだし、同条は、課税庁が必要に応じ数次の更正を行なうことを容認しているのみか、むしろ、負担公平の見地から、このような処分を行なうことを義務づけていると解されるからである。

(二) 原告に対する調査の適法性

原告主張の調査は、被告が法人税法一五三条および一五四条に即して行なつた適法なものである。すなわち、調査の必要性は、被告において、原告の本件各事業年度の確定申告書および添附されている財務諸表等を検討したところ、過少申告の疑いが出たことによる。原告の店舗のみならず代表者等の自宅の調査を行なつたのは、原告が典型的な同族会社である(調査日の当時、原告の代表者の母が取締役会長、実弟が専務取締役となっていた。)のみならず、原告の売上収入が主として現金取引であったからである。調査は代表者らの任意の承諾を得てその立合いのもとに実施された。このような適法な質問検査権が行使された場合、これによつて被調査者の私生活の平穏および営業活動がある程度妨げられたとしても、それは受忍すべきものである。

4 本件更正等処分の適法性(その二)

(一) 本件各更正処分の根拠

原告の本件各事業年度における所得金額の算出根拠は次のとおりであり、いずれも本件各更正処分における認定額を超えるので、その範囲内にとどまる本件各更正処分は適法である。

(昭和三九事業年度分)

(1) 所得金額の計算内容(△印は、減算金額を示す。)

〈省略〉

(2) 計算の根拠(各記号は右摘要欄の記号である。)

(イ)ないし(ニ)および(リ)ないし(ル)については、原告が確定申告にあたり、所得金額に加減算してきたもので、被告はこれを正当と認めた。

(ホ) 原告は前述のとおり昭和三九事業年度以降の各事業年度につき青色申告法人のみに認められる租税特別措置法五三条の規定による価格変動準備金への繰入額の損金算入を全額否認した。

(ヘ) 右(ホ)で繰入額全額を否認したことにより、原告が損金不算入として申告した価格変動準備金の繰入超過額が存しなくなつた。そこで右繰入超過額を否認した。

(ト) 原告は前述のとおり昭和三九事業年度以降の各事業年度につき青色申告承認の取消処分を受けているので、青色申告法人のみに認められる旧法人税法施行規則一五条の七(昭和四〇年大蔵省令第一二号による改正前)の規定による退職給与引当金への繰入額の損金算入を全額否認した。

(チ) 本件事業年度の別口利益額を益金に加算したもので、その内訳は次のとおりである。

〈省略〉

(A) 売上除外額について

被告が前述のとおり実地調査を行なつたところ、売上金額の一部を除外して計上している売上伝票(ただし、本件各事業年度より後の昭和四二年七月二八日から同年九月五日までの分)が発見され、さらに原告が右売上除外による金員の一部を架空名義および無記名によつて次のとおりの簿外預金をしていた事実が判明した。

〈省略〉

(注)1 店名欄の(一)ないし(四)は、それぞれ富士銀行渋谷支店、住友銀行渋谷支店、三和銀行尾山台支店、住友銀行都立大前支店を指す。

2 金額は預金利息の預入分も含む。

右事実からすれば、原告が本件各事業年度においても売上除外行為をしていたことは容易に推認できたので、前記調査に立合つた原告の経理部主任山下陸奥男に対してこの点の説明を求めたところ、同人は、「本件各事業年度において、パーラー部は二〇パーセント程度、果実部は二万円から三万円程度売上除外していた。この間の売上伝票はすでに焼却したので提示できない。」と述べ、資料提供を拒否した。したがつて、売上除外による別口利益(脱漏所得)を実額計算で算出することは不可能であった。

ところで、右山下は、被告の前記調査日現在においても、パーラー部の売上額の一部を除外していたことを認め、その除外割合は約一〇パーセント程度であると供述しているが、被告の調査によれば、現実の除外割合は一六・一パーセントである。したがつて、本件各事業年度の売上除外割合についての山下の前記供述も、実際よりかなり下まわると考えられる。そこで被告は、少なくとも、山下の右供述を下まわらない売上除外が存在するものと判断し、果実部について一日あたりの除外金額を二万円、パーラー部について除外割合を二〇パーセントと認定したうえ、これに基づいて次のとおりの推計をした。したがつて、右推計方法は合理性がある。

果実部については、年間稼働日数に二万円を乗じて売上除外額を算出した。

366日(事業年度総日数)-27日(控除日数)=339日(稼働日数)

339日×20,000(円)=6,780,000円(売上除外額)

(注) 控除日数内訳 定休日12日(月1日)臨時休日3日(慰安旅行等)

特別休日12日(39.6.16~6.27まで改築によるもの)

パーラー部については、原告の商業帳簿に記載されている本店パーラー部の売上金額を基本として、その基本額に二〇パーセントの除外割合で逆算して得た売上高から右基本額を控除して、売上除外額を算出した。

51,529,005(円)(基本額)÷(1-0.2(売上除外割合))=64,411,256(円)

64,411,256円-51,529,005円=12,882,251円(売上除外金額)

したがつて合計売上除外金額は一九、六六二、二五一円となる。

(B) 受取利息除外額について

原告が前述のとおり富士銀行渋谷支店ほか三行に設定した簿外定期預金等の当期中の収入利息金額である。

(C) 簿外経費について

原告が被告の所部係官に対し調査時に売上除外金額等のうちから簿外の経費に支出したとして申し立てた金額を被告は経費として認めた。

(昭和四〇事業年度)

(1) 所得金額の計算内容(△印は減算金額を示す。)

〈省略〉

(2) 計算の根拠(各記号は右摘要欄の記号である。)

(イ)および(ロ)ないし(リ)については、原告が確定申告にあたり、所得金額に加算減算してきたもので、被告はこれを正しいものとして認めた。

(ハ) 原告が修繕費として損金に算入した金額のうち、本店ビルの電気工事代金および玉川寮の造作に要した金員三〇九、三一〇円は法人税法施行令一三二条(資本的支出)に該当するので、同条を適用したものである。しかしながら、右は法人税法三一条一項に規定する。「償却費として損金経理をした金額」に該当するため、原告が選定している減価償却資産の償却方法(定率法)により償却費の計算を行ない、その範囲額を超える二八三、七七二円を損金不算入とした。

(ニ) 原告が広告費として当事業年度の損金に算入した金額のうち三三、〇〇〇円は、当期後の事業年度に配賦すべきものであるので損金算入を否認した。

(ホ) 昭和三九事業年度分の(ホ)と同旨により当期繰入額の損金算入を全額否認した。

(ヘ) 昭和三九事業年度分の(ヘ)と同旨の理由により否認した。

(ト) 昭和三九事業年度分の(ト)と同旨の理由により法人税法五五条の規定による退職給与引当金への繰入額の損金算入を全額否認した。

(チ) 当事業年度の別口利益額を益金に加算したもので、その内訳は次のとおりである。

〈省略〉

(A) 売上除外額の推計によつたこと、および採用した売上除外割合および単位金額ならびにその合理性の主張は昭和三九事業年度分の(A)と同一である。果実部の計算(計算方法は右の(A)と同一)を算式で示せば次のとおりである。

365日(事業年度総日数)-15日(控除日数)=350日(稼働日数)

350日×20,000(円)=7,000,000(円)(売上除外額)

(注) 控除日数内訳 定休日12日(月1日)臨時休日3日(慰安旅行等)

パーラー部の計算(計算方法は右の(A)と同一)を算式で示せば次のとおりである。

50,167,190(円)(基本額)÷(1-0.2)=62,708,987

62,708,987円-50,167,190円=12,541,797円(売上除外金額)

したがって、合計売上除外金額は、一九、五四一、七九七円となる。

(B) 受取利息除外金額は、昭和三九事業年度分の(B)と同様、当期以前の簿外定期預金等の当期中の収入利息金額である。

(C) 簿外経費は、昭和三九事業年度分の(C)と同様、原告の申立額を経費として認めたものである。

(ヌ) 原告は昭和三九事業年度に価格変動準備金として繰入れた金額を益金に戻入れているが、被告は既に昭和三九事業年度において同年度分の(ホ)のとおり右戻入額を否認しているのでこれを益金に算入せず所得金額より減算した。

(ル) 昭和三九事業年度分について原告が損金不算入として申告した価格変動準備金の繰入超過額は、昭和三九事業年度分の(ヘ)のとおり超過額がなくなったので、原告が確定申告で損金に算入した金額を否認した。

(ヲ) 原告が確定した決算において、退職給与引当金確定を取りくずして益金に算入しているが、被告は既に昭和三九事業年度分において同勘定への繰入金を昭和三九事業年度分の(ト)の理由により全額否認しているので、同勘定の取りくずした額を益金に算入せず、所得金額より減算した。

(ワ) 昭和三九事業年度分の更正処分による増差所得金額に対する事業税相当額を損金として認め、所得金額より減算した。

(昭和四一事業年度分)

(1) 所得金額の計算内容(△印は減算金額を示す。)

〈省略〉

(2) 計算の根拠(各記号は右摘要欄の記号である。)

(イ)ないし(ホ)および(チ)ならびに(リ)について、原告が確定申告にあたり所得金額に加減算してきたものを被告は正しいものとして認めた。

(ヘ) については昭和三九事業年度分の(ト)と同旨の理由により当期繰入額の損金算入を全額否認した。

(ト) 別口利益額についての計算内容は次のとおりである。

〈省略〉

(A) 売上除外額の推計によったこと、および採用した売上除外割合および単位金額ならびにその合理性の主張は昭和三九事業年度分の(A)と同一である。

果実部の計算(計算方法は右の(A)と同一)を算式で示せば次のとおりである。

365日(事業年度総日数)-15日(控除日数)=350日(稼働日数)

350日×20,000円=7,000,000円(売上除外額)

(注) 控除日数内誤定休日12日(月1日)臨時休日3日(慰安旅行等)

パーラー部の計算(計算方法は右の(A)と同一)を算式で示せば次のとおりである。

47,332,305円(基本額)÷(1-0.0)=59,165,381円

59,165,381円-47,332,305円11,833,076円(売上除外金額)

したがって、合計売上除外金額は一一、八三三、〇七六円となる。

(B) 受取利息除外金額についても昭和三九事業年度分の(B)と同様に、当期以前の簿外定期預金等の当期中の収入利息金額である。

(C) 簿外経費についても昭和三九事業年度分の(C)と同様、原告の申立額を被告は経費として認めた。

(ヌ) 原告は昭和四〇事業年度分に価格変動準備金として繰入れた金額を益金に戻入れているが、被告は既に昭和三九事業年度分において前述のとおり右戻入額を否認しているので、これを益金に算入せず所得金額より減算した。

(ル) 昭和四〇事業年度分について、原告が損金不算入として申告した価格変動準備金の繰入超過額は昭和三九事業年度分の(ヘ)のとおり超過額がなくなつたので、原告が確定申告で損金に算入した金額を否認した。

(ヲ) 原告は退職給与引当金を取りくずして益金に算入しているが、被告は既に昭和四〇事業年度分において退職給与引当金勘定への繰入額を前記(ヘ)の理由により全額否認しているので昭和三九事業年度分の(ヲ)と同旨の理由により、同勘定の取りくずした額を益金に算入せず、所得金額より減算した。

(ワ) 昭和四〇事業年度分の更正処分による増差所得金額に対する事業税相当額を損金として認め、所得金額より減算した。

(二) 本件各賦課決定処分の根拠

(1) 重加算税の賦課決定処分

原告は、前述のとおり、各事業年度とも売上金額等を除外して法人税の課税標準の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、その隠ぺいしたところに基づき納税申告書を提出したので、被告は、昭和三九事業年度分につき、本件更正処分(増差所得金額一三、九五九、二九一円)に基づき納付すべき法人税額五、六七〇、六〇〇円のうち隠ぺいの事実に基づく所得金額一二、一八七、三六八円に対する法人税額四、九三七、〇〇〇円を、昭和四〇事業年度分につき、本件更正処分(増差所得金額一三、八二〇、七二〇円)に基づき納付すべき法人税額五、五六九、五三〇円全額を、昭和四一事業年度分につき、本件更正処分(増差所得金額四、五二七、三八三円。ただし、そのほか減少欠損金額八、七九〇、一三五円)に基づき納付すべき法人税額一、四四三、二〇〇円および既に還付されている所得税額一四九、六九六円の合計一、五九二、八九六円をそれぞれ重加算税の対象とした。なお、右算出による昭和四一事業年度分の重加算税額四七七、六〇〇円のうち二、一〇〇円は免除した。

(2) 過少申告加算税の賦課決定処分

昭和三九事業年度分について、本件更正処分に基づき納付すべき法人税額のうち前記重加算税対象分を控除した残額七三三、〇〇〇円を過少申告加算税の対象額とした。

三  被告の主張に対する原告の認否および反論

1  認否

(一) 被告の主張2について

原告が被告主張のように帳簿書類に取引の一部を隠ぺいして記載したことは否認し、その余の点は争う。

(二) 被告の主張4について

被告の主張事実中、原告が本件各事業年度において被告主張のような売上除外をし、その一部を簿外預金していたとの点は否認し、その余は争う。

被告主張の簿外預金のうち、三和銀行尾山台支店の分は、原告代表者の実弟西村勉個人のものであり、その他は右代表者の母西村末子個人の預金である。すなわち、末子は、戦前から亡夫正次郎とともに果物販売業に励み、生活費の余裕分や個人的な貸付、証券投資等の利潤等をもとに貯蓄につとめた結果、右のような預金の蓄積をみるに至つたものである。

2  反論(被告の主張1に対して)

(一) 文理解釈について

本件条項を被告主張のように解釈することは、主語である「基因たる事実」を不当に無視し、述語である「同項各号のいずれに該当するか」との文言のみを不当に過大視することになる。法は取消通知書にまず取消しの基因となつた事実を掲げ、次いでそれが一項の何号に該当するのかを明示すべきことを命じている、と文理解釈するのが正しい。

(二) 立法経過について

本件条項の立案審議の際に被告主張のような質疑応答があつたとしても、そのことは直接に本件条項の解釈には関係しない。何故なら、立法者の意図いかんにかかわらず、本件条項の趣旨・目的との関連において合目的的に解釈されるべきだからである。

(三) 青色承認取消処分の性質について

青色申告書提出承認を受けた者が享受する各種の特典は、納税者自らが青色申告の取やめをしないかぎり毎事業年度継続していくものであり、青色承認取消処分によつてはじめて右特典が失なわれることになるのであるから、右取消処分の性質をいかに解するにせよ納税者の利益に多大な影響を及ぼす処分であることはいうまでもない。税務署長がこのような処分を明確な事実を摘示することなく一方的に実行できるとの被告の主張は、納税者の納得する明朗な税務行政とはほど遠い。

(四) 本件条項の趣旨

本件条項の趣旨は被告の主張するとおりであるが、その趣旨が被告の主張するような該当条項号の理由附記のみで達せられないことは明らかである。何故なら、取消理由が類型化されているとはいつても、それはいずれも抽象的な規定であるから、納税者は、該当条項号の記載のみでは具体的な取消理由を理解しえないし、また、被告の指摘する税務調査は税務官吏が各事業年度の全般にわたり多数の項目について行なうものであるから、その際になされる帳簿等の不備、不正等の指摘も誤りなきを保し難いからである。

第三証拠関係

原告は甲第一ないし同第三号証を提出し、被告は甲号各証の成立を認めた。

理由

一  本件青色承認取消処分の適否

請求原因1ないし3の各事実ならびに本件青色承認取消処分の通知書の理由欄には「法人税法第一二七条第一項第三号に掲げる事実に該当すること。」とのみ記載されていることは当事者間に争いがない。しかしながら、当裁判所は、本件青色承認取消処分は右通知書の理由附記の点において違法であり、その余の点を審究するまでもなく取消しを免がれないものと判断する。その判断の経過をこの点に関する被告の主張に即して述べると次のとおりである。

1  法人税法一二七条二項後段の文理解釈

法人税法一二七条は、一項において青色申告書提出承認の取消事由を一号から四号までの四つの類型に分けて規定し、二項において右承認の取消処分をする場合には書面でその旨を通知することおよびその書面には「その取消しの処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」ことを規定している。

ところで、理由附記に関する法律の規定の仕方を比較してみると、右に述べた青色申告書提出承認取消処分(以下「青色承認取消処分」という。)の方が青色申告書に係る更正処分(以下「青色更正処分」という。)の場合(法人税法一三〇条二項)や異議決定および裁決の場合(昭和四五年法律第八号による改正前の旧国税通則法七五条、行政不服審査法四一条一項、四八条。なお、現行国税通則法八四条四、五項、一〇一条一項参照)よりも附記理由の内容程度をより具体的に規定していることは被告の指摘するとおりである。しかし、このことから、青色承認取消処分に関する前記規定を被告主張のごとく文理上当然に該当条項号を附記すれば足りると読むべきである、との結論を導き出すことはできない。何故なら、法人税法一二七条二項後段の文言が、例えば「その取消しが同項各号のいずれによるものであるかを附記しなければならない」となつているような場合には、その文理上、該当条項号を附記すれば足りることが明らかであるが、現行法のごとく「その取消しの処分の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」となつている場合には、取消処分の基因となつた具体的事実とその該当条項号の両者を附記しなければならない趣旨であると読むことも文理上不可能ではないからである。もつとも、後者の趣旨を要求する場合には、「その取消しの処分の基因となつた事実およびそれが同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」と規定することによつてその趣旨を一義的に明らかにしうる訳であるけれども、被告主張のごとくそのように規定した場合に限つて前記両者の附記が要求されると解すべき合理的理由は存しない。

これを要するに、法人税法一二七条二項後段の文理解釈だけからでは、青色承認取消処分の通知書に附記すべき理由が該当条項号のみで足りるのか、それともそのほかに取消処分の基因となつた具体的事実の記載をも必要とするのかということは必らずしも明らかではないといわなければならない。

2  立法の経過

青色申告制度が旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)にとり入れられたのは昭和二五年法律第七二号により同法の一部が改正された時であるが、その際は同法二五条八項の一号ないし五号において青色承認取消しの実体要件を規定するとともに、同条九項において当該法人に右取消しを通知する旨を規定していたにとどまり、理由附記に関する規定は設けられていなかつた。その後、昭和三四年法律第八〇号による旧法人税法の改正の際に、同法二五条九項の後段に「この場合において、前項の規定による承認の取消の通知をするときは、当該通知の書面にその取消の基因となつた事実が同項各号のいずれに該当するかを附記しなければならない」旨の規定が議員修正により設けられるに至り、これが現行法一二七条二項に引き継がれたのである。

ところで、右昭和三四年法律第八〇号による旧法人税法の改正の際に、修正案を提出した奥村又十郎衆議院議員は、昭和三四年三月四日の衆議院大蔵委員会において、修正案の提案の趣旨として「現行法におきましては、税務署または国税局が青色申告の承認取り消しをする場合は、ただ取り消しの通知をすればいいということになつておりますが、それでは善良な青色申告の納税者にとりまして非常に勝手が悪い。どういう理由で青色申告の承認を取り消すか、その理由を付記してもらいたい、こういう要望が強いので、本委員会としては、これは納税者の要望は当然である、この理由付記を法律に明記しなければ、この青色申告の承認取り消しの政府の処分に対して納税者が異議申し立てをする場合に、現行法ではその異議の理由付記に非常に差しつかえがある、政府が取り消しの理由を書いてさえくれれば、納税者の異議申し立てに対する理由の付記が納税者にとつて非常にやりやすい、こういう意味において修正案を提案した。かようなわけであります。そこで、もう一つ広範な理由から申し上げますと、現在の青色申告に対する政府の更正決定のやり方の実態を見てみなければならぬ、こういうことで、先般来の小委員会で青色申告に対する更正決定のやり方の実体調査をしてみますと、実は、残念ながら、われわれとしては、現在の税務行政がこの問題についてはかなりなおざりで紊乱しておる。その証拠には、納税者から訴訟を起され、裁判所において、政府のやつた青色申告に対する更正決定は違法である、無効であるという判決を昨年来しばしば受けておる。これ一つ見てもわかります。従つて、政府は、青色申告に対する更正決定についてはもつと法律通り明確な理由をつけなければならぬ。ところが、政府は実はつけられない。つけられない理由としては、青色申告の帳簿そのものが実は政府としては十分信頼がおけない。従つて政府はある程度推定で更正決定をせざるを得ない、こういうわけです。推定で更正決定をする、つまり青色申告の帳簿そのものが認められないというならば、まず法律で定められた通り、政府は青色申告の承認をまず取り消してかからなければならぬ。そういう順序を経た措置がなされておらぬから、裁判所で政府は敗けておる。この点は、もう少し法律通りに、政府が順序を運ばれるのが当然と思う。政府としては、それは青色申告をなるべく奨励しようという親心から納税者の間違いをとがめぬのだ、こうおつしゃるのも、なるほど理由はあります。が、しかし、裁判所において政府は違法であるとしかられるところまで、これは強情に押すべきではない、こういう意味において、もつと堂々とやらなければならぬ。その場合の処置としては、めったやたらと青色申告を取り消されては困りますから、今度は取り消しに対して政府は理由付記をしなければならぬ。こういうように、当委員会としては、政府当局と納税者との中間にあつて、最も公平な結論を出したい。それが当委員会の修正案の趣旨であります。」と説明している(昭和三四年三月四日衆議院大蔵委員会議録第一六号一〇頁)。この説明によれば、理由附記を要求する趣旨が、処分の相手方に対し処分の理由を知らせて不服申立てに便宜を与えるとともに、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制することにあつたことは明白に読み取ることができるが、被告の主張するように理由附記の程度が該当条項号のみの附記で足りると提案者が考えていたかどうかは、必らずしも明らかではない。もつとも、右大蔵委員会に先だつて昭和三四年二月二五日に開催された大蔵委員会税制並びに税の執行に関する小委員会において、政府側の金子一平説明員(当時国税庁直税部長)は、小委員である奥村議員の質問に対し「先生からのお話のございました、青色申告を取り消す場合の理由の付記の問題でございます。御承知のように、青色申告の取り消し、これは任意裁量の行為ではございません。法定の条件が備わつたときに初めてできる覊束された行為でありまして、しかも、一定の場合、たとえば帳簿が備えつけていないとか、あるいは取引の全部または一部を隠蔽、仮装して記載するとか、そういつた具体的な条項を法文にはつきり掲げておりますので、要するに相手方にどれによつてやつたんだという説明がわかれば、私はそれでいいじやないかというふうにも考えております。」と答弁している(昭和三四年二月二五日衆議院大蔵委員会税制並びに税の執行に関する小委員会議録第三号一〇頁)。しかし、金子一平説明員は、青色承認取消処分の通知書に理由を附記する必要はなく、いかなる取消事由による取消しであるかの説明が相手方になされれば足りるという趣旨で右答弁をしているのではないかと思われる。このことは、奥村小委員が、金子説明員の右答弁の直後で「言葉を重ねて恐縮ですが、ただ、その異議の申し立てをする場合に、取消しの理由が明記してあれば、その理由に対する反駁をもつて異議申し立ての理由にできますが、ただばく然と取り消すといわれた場合には、今度は納税者の側で異議を申し立てる場合の理由がつけにくい、こういう点がありますから、その点が問題だ、かように思います。」と述べていることからも推測できるのである。したがつて、青色承認取消処分の通知書に理由の附記を要するかという問題については、奥村又十郎小委員と金子一平説明員との間に、昭和三四年二月二五日の段階では意見の相違があつたものと考えられる。そして、その後、前述のとおり、同年三月四日の衆議院大蔵委員会において、奥村又十郎委員から修正案の提出がなされ、ここにはじめて青色承認取消処分の理由附記に関する法案が示されるに至つたのである。

これを要するに、立法の経過に照らしても青色承認取消処分における理由附記の程度は明らかではなく、けつきよく、この点は、次に述べる青色承認取消処分の性質と理由附記を要求する制度の趣旨に照らして合理的に解釈するほかない。

3  青色承認取消処分の性質

申告納税制度は、自己の所得金額および税額を自ら正確に計算し、申告納税する制度であり、納税者が帳簿書類を備え付け、取引を正確に記帳することがその基盤をなしており、青色申告制度は、これを推進するために設けられたものである。すなわち、青色申告書提出の承認を受けた者は、所定の帳簿を備え付け、これに取引を正確に記帳することが義務づけられる反面、課税標準の計算に関し、各種の準備金や引当金を法定額の限度で計上することができたり、固定資産の耐用年数の短縮や減価償却額の割増計上や減価償却不足額の前五事業年度以内の加算などの特例の摘用を受けることができ、前五事業年度以内の繰越欠損金額の控除の特例を受けることができるなどの実体上の特典とともに、更正処分をするにあたつては帳簿書類の調査に基づいてこれを行ない、推計課税は禁止され、更正通知書には更正の理由附記が要求されるなど手続上の特典が与えられている。これらの実体上の特典は青色申告書により確定申告をするにつき享受しうるものである。

ところで、被告は、青色承認取消処分は一たん与えた特典を将来にわたつて剥奪するという制裁的機能を有するものではなく、承認を受けた者の信頼性および誠実性の欠如を確認するものにすぎない、と主張し、このことを該当条項号の附記で足りることの一つの根拠として挙げている。しかしながら、青色承認取消処分は、たんに右のような確認的性質を有するにとどまらず、青色申告書提出承認を受けた者に認められる右のような実体上および手続上の特典を剥奪するものであつて、不利益処分的な性質を有するというべきであるから、被告の右立論はその前提において理由がない。

4  理由附記を要求する趣旨

法人税法一二七条二項後段において青色承認取消処分に理由附記を要求する趣旨が、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の相手方に対し処分の理由を知らせて不服申立てに便宜を与えることにあることは、被告の主張するとおりである。問題は、理由附記の程度として被告主張のごとく該当条項号のみを記載した場合と、原告主張のごとく具体的事実をも記載した場合とで、いずれが右の制度の趣旨に適うかという点にある。そこで、この観点から、「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠ぺいし又は仮装して記載し、その他その記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」と規定している法人税法一二七条一項三号に基づく青色承認取消処分の場合(ちなみに、青色承認取消処分をめぐる納税者と税務署長との間の紛争中最も頻繁な事例が三号に関するものであることは、当裁判所に顕著であり、本件もその一にほかならない。)について検討する。まず、該当条項号のみを記載する場合よりもこれに該当する具体的事実をも記載する場合の方が、一般的には右三号の要件に該当するかどうかの判断においてより慎重になり、処分庁の恣意を抑制するうえにおいて優れているといわなければならない。次に、不服申立ての便宜の点から考えるに、右の三号に該当するとだけ記載しても(本件が正にそうである)、一事業年度内においては数多くの取引先と数多くの取引をするのが通常の法人にみられるところであるから、税務署長がいかなる取引をとらえて隠ぺいまたは仮装と判断したのかあるいはいかなる事実をとらえて帳簿書類の記載事項の全体についてその真実性を疑うに足りるものと判断したのかが皆目分からず、青色承認取消処分を受けた者としては、これに対し不服申立てをすべきかどうか、不服申立てをするとしていかなる点を具体的な不服の事由としたらよいのかの判断に困るといわなければならない。これに対し、具体的事実をも記載してある場合には右の困惑は解消される。したがつて、理由附記を要求する趣旨の観点からは、処分庁の恣意を抑制するという点からいつても、また、処分の相手方の不服申立てに便宜を与えるという点からいつても、該当条項号のみの記載では不十分であり、具体的事実を記載してはじめて右の趣旨に沿うことができるといえる。

ところで、被告は、(1)取消理由が類型化されていること、(2)取消処分の前には通常税務調査が先行すること、の二点を理由として、該当条項号の記載のみでも前記の趣旨目的は達せられると主張するので、さらに検討する。(1)の点については、法が青色承認取消処分の場合に取消理由を類型化した趣旨は取消理由を限定し法定の事由以外には取消しを禁止したことにあり、理由附記の程度が簡単でよいことを正当化するものではないと解するのが相当である。(2)の点についてみると、前述のような青色承認取消処分の性質、理由附記を要求する趣旨などに鑑みると、取消理由は取消通知書の記載自体において明らかにされていなければならず、このことは承認を取消された者が取消理由を予め了知していたか否かにかかわりないと解すべきである。したがつて、被告の右主張はいずれも理由がない。

5  青色更正処分等との比較

青色更正処分の理由附記の程度については、帳簿書類の記載以上に信ぴよう力のある資料を摘示して処分の具体的根拠を明らかにしなければならないとするのが確定した判例理論である。青色更正処分と青色承認取消処分とは処分の性質・内容を異にし、前者においては個々の勘定科目における具体的金額が直接問題となるのに対し、後者においてはその前段階において、そもそも帳簿によつて課税標準を算出するという方法によらせるのが相当か否かが問題となり、具体的金額は隠ぺいまたは仮装に係る取引を特定する一要素にすぎないのであるから、両者の理由附記の内容が異なることはいうまでもない。しかしながら、被告主張のように、右のような差異を理由に青色承認取消処分の理由附記の程度が青色更正処分のそれよりも簡単でよいとすることは合理性を欠くといわなければならない。なんとなれば、ひとたび青色承認取消処分がなされると、新たに承認を受けるまでは、前述のような実体上および手続上の特典を享受できないのであるから、これらの特典は享受しつつ所得金額および税額の更正を受けるにすぎない更正処分よりも、青色承認取消処分の方が納税者にとつてより大きな不利益処分性を有するものというべきところ、このようなより大きな不利益処分の理由附記の方がより小さな不利益処分のそれより簡単でもよいとは到底考えられないからである。

なお、被告は、該当条項号の理由附記で足りることの一つの根拠として、青色申告の承認申請却下処分や刑事訴訟法上の保釈の取消および勾留状を引き合いに出しているが、いずれも青色承認取消処分とは異質・別個のものであるから、彼此比較をすること自体が不当であつて、この点はなんら被告の主張の正当性を理由づけるものではない。

6  結論

以上検討したところによれば、青色承認取消処分の通知書に記載すべき理由附記の程度としては、該当条項号の記載のみでは足りず、これとともに、これに該当する具体的事実につきこれを特定しうる程度にその要点を記載することをも要すると解するのが相当である。したがって、このような記載を欠く本件青色承認取消処分には理由不備の違法があると断定せざるをえない。なお、このように解しても、青色承認取消処分をするにあたつては、所轄税務署長は取消理由の存否につき十分な調査をしているはずであるから、税務事務処理上それほど煩瑣・過重を強いるものとは考えられない。

二  本件更正等処分の適否

被告の本件更正処分が、本件青色承認取消処分の後、いわゆる白色申告者に対するものとしてなされたものであることは当事者間に争いがなく、その処分通知書になんらの理由附記もないことは被告も明らかに争わない。ところで本件青色承認取消処分を取消す判決が確定したときは、原告は、右判決の遡及効により、処分当初から青色申告書提出承認を受けていた者とみなされることになるから、右青色承認取消処分に前示のとおり取消すべき瑕疵がある本件においては、これに引き続きなされた本件更正処分においても、原告は青色申告法人として法人税法一三〇条の利益を享受しうる地位にあったものというべきである。したがつて、同条二項所定の理由の附記のない本件更正処分は違法であり、それに伴なつてなされた本件賦課決定処分もまた違法であつて、いずれも取消しを免がれない。

三  むすび

以上の次第であるから、本件青色承認取消処分ならびに昭和三九事業年度および昭和四〇事業年度に係る本件更正等処分(ただし、国税不服審判所長の昭和四六年四月二七日付裁決で減額された部分を除く。)の取消しを求める原告の昭和四六年(行ウ)第一八〇号事件における各請求および昭和四一事業年度に係る本件更正等処分の取消しを求める原告の昭和四六年(行ウ)第二一九号事件における請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由があるのでこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高津環 裁判官 上田豊三 裁判官 篠原勝美)

別表

(一) 昭和三九事業年度分

〈省略〉

(二) 昭和四〇事業年度分

〈省略〉

(三) 昭和四一事業年度分(△印は欠損金額を示す)

〈省略〉

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